第50回 がんと付き合うことをあきらめないで

お知らせ

定期配信最終回
前号で予告させていただいたとおり、患者だよりの定期配信を本稿で終了いたします。
今まで掲載したこのおたよりから得るものがあった、気持ちの切り替えができた、というがん患者さんやご家族の皆さんがいらっしゃいましたら、大きな喜びです。

最終稿でお伝えしたいメッセージは、いつもと変わらないのですが、がんと付き合うことをあきらめないでいただきたいということです。

がんをはじめとする病気に悩まされることになった方は、今までと異なる苦労を抱え込んだと感じるでしょう。その原因・理由がわからない場合もありますし、自分の今までの生活態度を否定されたように感じ、ひどく気持ちが落ち込むこともあるでしょう。

しかし、長く生きている限り、「なぜ私が?」と思うような様々な辛苦を体験することは避けられないのではないでしょうか。自然災害に巻き込まれ、親族をなくしたり、自宅を失ったりする方もいます。不慮の事故や事件で、大切な家族を失う方もいらっしゃいます。

こうした辛苦に出会ったとき、ひとは大いに嘆き悲しみ、時には以前の自分に戻れない場合もあります。しかし、癒えたわけではないけれど、その辛苦を乗り越えて前に進もうとする方もいらっしゃるはずです。

自分や家族の病気も同じだと思っています。病を和らげたい、癒したいと医療に頼りながら前を向いて歩くこと、これはそれだけで勇気のある行為だと思います。医療者の前に現れたあなたは、すでにマイナスからのスタートです。それでも、どうにかならないかを探っているわけです。

病気の状態がプラスになることは稀で、何かしら(例えば臓器)を失うこともあります。医療技術が発達した今でも、治療によってマイナスの度合いが減るかどうかは誰にも断言できません。医療に完全な正解はなく、医療者側も患者も、治療や薬を「試してみないとわからない」からです。

それでも、治療によってかつての自分に近づこうとしたり、治療はあきらめても、病気になった自分を受け入れて、どう生きてゆこうかと新しい自分にチャレンジしたりする。こうした努力はとても人間らしいと思いますし、そうした自分を通して、支えてくれる周囲の人たちへの感謝と自分自身への誇りとを感じてほしいと思います。

私は、13年目となるこの闘病生活を振り返って、自分の病気のマイナスの度合いが減るかどうかをまさに体感したくて、様々な治療法や治療薬を体験してきました。結果として、マイナスの幅が狭まった時期もありましたし、今のように悪化の方向に進んでいる気がする時期もあります。

けれど、前に進む勇気とその行動がなければ、これまでの12年間の時間は存在しなかったのです。結果は未知数、どこに向かって歩んでいるのかもわからない、それでもここにとどまらず、前に進んでみることで、暗闇から何かを発見できるかもしれないと思って、日々治療を続けています。

今はまだその心境になっていませんが、もう少し年齢を重ねたり症状が重くなったりしたら、治療はあきらめて、どう残りの時間を有意義に過ごそうかと考えるかもしれません。これも勇気です。否定するつもりはなく、立派な人間らしい選択だと感じます。

こうしたあきらめない気持ちを、患者自身、そして家族をはじめとする周囲のサポーターも失わないでほしい、というのが私からの最後のメッセージです。

今後、患者を支える方々へのインタビューや、有益な講演会のレポートなど、季刊でまたメッセージを配信できるかもしれません。

身体の状況がどうであれ、人間らしく健やかなお気持ちで、あきらめずに毎日を過ごしていってくださることを切に願っております。私もいつまでもそうありたいと願っています。

読んでくださった皆さん、ありがとうございました。

安田淳子

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