第37回 忘れられない患者さん

病院の待ち合いエリアに、病院や医療法人が発刊している広報誌が置いてあることがあります。新しい診療科を紹介したり、レストランの人気メニューを掲載したりと、病院に入院している方や外来に訪れた方に役立つ情報が詰まっています。

私は、自分が通院する大学病院や、入院している友人のお見舞いに行った病院で、こうした冊子を手にとって眺めています。最近読んだ中で面白かったもののひとつに、医師や看護師が綴る「忘れられない患者さん」というコーナーがあります。

いくつかの記事を読んでみると、医師や看護師が仕事を始めて数年以内に担当した患者さんのエピソードが大半であることに気づきます。プロフェッショナルとして歩み始めて日が浅いうちに出会った患者さんに、自分が医療を施す上での揺るがない指針を与えてもらった、という内容のものが多いです。

小児科の医師の場合は、1歳にも満たない頃に診療を担当した患者さんと再会したエピソードを綴っていました。転勤してよその病院に移り、しばらくぶりにかつて勤めた病院に戻ってくると、当時赤ちゃんだった患者さんは10歳の女の子になっていました。持病を克服し、年に一度の定期健診のためだけに通院している患者さんの成長に出会えた喜びが記されていました。

脳外科に勤める看護師の手記もありました。脳の手術後に、後遺症で以前のようにスムーズに会話できなくなった患者さんを看護したときのエピソードでした。患者さんの状態が変わっても、その患者さんがその人であることには違いない、だからありのままを受け止めて、変わらぬ態度、気持ちで介添えをすることの大切さを身につけたという経験談でした。

がんの末期の患者さんを受け持った医師が、最期まであきらめないで治療に取り組む患者さんに勇気づけられた、という感想を記していることも多いです。

医療者も、いつでもエネルギーに満ちて前向きなわけではありません。休みもそこそこに患者さんや治療法に頭をめぐらせ、心身ともに疲れ切っている医師に出会うこともあります。相性の悪い患者さんの看護を淡々とこなしながらも、理想と現実とのはざまで悩む看護師も見かけます。

病気やけがを通じて出会うことになった医療従事者と患者。一見、強者と弱者という関係ですが、医師も看護師も患者も同じ人間ですから、ともに時間を過ごすことでお互いに影響をおよぼし合っています。医療技術にとどまらず、なるべく多くのプラスのエネルギーを医療従事者から受け取りたい、そして患者である自分からも医師や看護師にプラスのエネルギーを伝えたい。そう思うきっかけになった「忘れられない患者さん」のエピソードでした。

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