第36回 すべての病気に病名があるわけでも治療法があるわけでもない

あなたが、がんなど日常生活に支障をきたす病気を経験している(していた)という人でしたら、思い出してみてください。身体の不調を感じて病院にいったものの原因がはっきりしなかったときと、診断がついて治療を開始したときと、どちらのストレスが大きかったですか。

個人の性格にもよるかもしれませんが、私は不調の原因や病名が分からなかった時期に心労を感じていました。何が悪いのだろう、どう対処したらよいのだろう、今後どうなるのだろう、という分からないことだらけの状態に不安を感じ、落ち込みがちでした。

一方、「がんかもしれない」と言われたときは、もちろんショックでした。しかしそれ以上に、不調の理由がはっきりしたことで気持ちが落ち着きました。また、同じ病気をもつ人が少なくないことや治療法があることも同時に知り、指針を得られたようで勇気づけられました。

世の中には、病名がついていない病気や、治療法が発見されていない病気がまだまだ存在します。また、その病気に罹る人が少なく、なかなか診断がつかないことで、治療にたどり着けない患者さんもいます。

2017年9月から、私は希少疾患(※1、2)向けの治療薬を開発、販売する製薬企業に就業しています。がんという病気をあらためて考えてみると、多くの医療者に理解され診断される機会も多く、治療に取り組める人が多いと知りました。(ただし、がんの中にも患者数の少ない珍しいがんは存在します。)

希少疾患の患者さんとその家族にとって、同じ病気を抱える患者さんと出会える機会は限られています。自分の病状をキーワードに、インターネットを駆使して、頼るべき医療機関、医療者、患者会などを探し、ドアを叩き、相談を繰り返すこともあるでしょう。

不具合の理由が分からないまま生きる人を少しでも減らすために大切なのは、ひとえに啓蒙活動なのだろうと思います。希少疾患の研究者や治療技術を持つ企業は、患者さん、ご家族、そして医療に携わるすべての人々に、その病気には名前があり、治療法が確立できている(できそうである)という情報を発信していかなくてはなりません。

もちろん、病名が分かり、治療を開始できても、それは病気との付き合いの始まりでしかありません。人によっては辛い治療が長く続く場合もあるでしょう。しかし、自分の身体の不具合に名前がつき、治療法があると分かったことで、患者さんとご家族はどれほど心が安らぐことかと想像します。

今、何かの病気の治療に取り組んでいらっしゃる皆さんには、治療法の存在、同じ病気の患者仲間の存在に心を強くして、前進していただければいいなと思います。私も、そんな気持ちでがん治療に取り組んでいます。

※1 希少疾患の定義は、国や地域によって異なります。日本では、希少疾病用医薬品は治療対象者の数が本邦において5万人未満であることと定義されています。米国では米国全土で患者数が20万人未満の疾患(人口比で0.06%)、欧州では人口比で0.05%の疾患と定義されています。

※2 日本では、昭和47年に難病対策要綱が策定され、希少性より重症度の評価を含めた医療行政上の疾患区分として「難病」が使われてきました。現在、難病は「発病の機構が明らかでなく、かつ、治療方法が確立していない希少な疾病であって、当該疾病にかかることにより長期にわたり療養を必要とすることとなるもの」と定義されていて、希少疾患の一部もこれに含まれます。

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