第22回 がんと付き合う、自分の気持ちと家族の気持ち

ひと昔前は、がんになったことを告知してほしくないという人もいて、本人には知らせず家族だけが知っているというケースが多かった印象ですが、最近は病名を知ったうえで治療に臨む患者が増えている気がします。日本人の半数が一生のうち一度はがんを経験する時代になったことで、がん患者に出会う機会が増えたからか、若い年齢でがんとの闘病が始まる事例が増えたからか、がん種によっては治療後の生存期間が長くなったからか。さまざまな理由がありそうです。

患者が闘病方法を決める過程に家族が関わることも多いのではないでしょうか。特に患者が高齢の場合は、病院や医師を選んだり、標準治療の選択肢やその他の治療の可能性などを調べたりする手段や体力を患者本人は持たず、それを子供世代が担うことは珍しくありません。

しかし、患者とその家族が治療を決定する過程で、両者の気持ちが折り合わず、結果として患者が治療を前向きに捉えていない例に出会うことがあります。病は気から、治療も気から。患者が前向きな気持ちで治療に臨むにはどうしたらよいでしょうか。

がんの告知、とりわけ再発・転移の告知は、がん患者にとって耐え難い知らせです。自暴自棄になる人もいれば、気持ちがふさぎこみ何もしたくなくなる人もいます。どんな治療をしても治らないのかもしれないし、そうであれば思い出の詰まった自宅で心の整理をしながら静かに最期を迎えたい、と思う患者も少なくないでしょう。しかし、病気なら選べる限りの治療を施し病と立ち向かうべきだ、だからふさぎこんでいる場合ではなく心を奮い立たせて治療を受けるべきだ、と家族が考えるのもごく普通の反応です。

このお互いの考え方の違い、相手への気持ちの違いを、言葉にして相手に伝えているでしょうか?親だからこそ子に迷惑をかけたくない一心で感情的な言葉を発してしまい、自分のために何かしようとしてくれているお子さんに自分の生き方の真意を伝えていないかもしれません。また、お子さんは、「親孝行らしいことができずにきた自分だが、今こそ親に長生きしてもらい、もっと孝行したい」という思いを抱いているのかもしれません。「ふさぎこんでしまった親を見ているといたたまれないから、少しでも希望が持てるように治療を受けてほしい」ということかもしれません。

お互いの言い分の根底にあるのは、「自分らしくありたい」という生き様と、「あなたが大事だから」という相手への思いやりであるはずです。それがきちんと言葉にできれば、患者も家族も、怒りを抱え込んだり治療を避けたりせずに、前向きな気持ちでがん治療に臨めるのではないでしょうか。

実際には単純なきれいごとではないかもしれません。辛い出来事を体験したことがない人に経験者の気持ちが100%は理解できないように、がんになったことがない家族にはがん患者の治療と死に向き合う気持ちは理解できません。しかし、家族にはおもんぱかることしかできないからこそ、患者は心の底の気持ちを家族に伝え、そして家族の声にも耳を傾けるべきでしょう。

私も家族や近しい親族にがんの患者がいないので、自分と同じ程度にこの病を知っている身内はいません。しかし、自分がどのようにこの病と付き合い、死を捉えているかを機会あるごとに伝えています。心が落ち込むことが少なく前向きに治療に取り組んでいる私ですが、それでも、家族や友人から「あなたにいてもらいたい」という言葉を伝えられると、もう少し医療に頼って命を永らえ、大切な人たちとともに過ごす時間を持とうという勇気と元気を与えられます。

同じ病気を経験していなくても、家族をはじめとする大切な人たちが一番心配してくれている存在であることには違いありません。病気になっても、今までどおり信頼しあい、治療に向かう生き様を応援してもらいましょう。そしてなにより、患者自身が前向きに治療に臨むことが、家族の支えになるでしょう。

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