第16回 がんと就労 働きながらがんを治療していることを職場で公言しないワケ

久しぶりに会った元同僚の話題です。彼女は、仕事の上で先輩だっただけでなく、がん患者としての先輩でもあります。34歳で初めてがんが見つかって5年ほど治療し、その後しばらく寛解状態だったものの別のところに新たながんが見つかり治療をして5年を超えたという方です。出産・育児で数年ほど仕事を辞めた以外は会社勤めを続けていらっしゃいます。

治療歴10年以上のベテランがん患者である彼女に、日頃から答えにくいと感じている「がん就労」について質問してみました。

職場では、自分ががんであることをどの程度告知していますか?
直属の上司だけです。
病名を伝えず仕事をする上で、困ったことはないですか?
抗がん剤の影響でお腹がくだりやすかったときは、「会議中に突然抜けたらごめんなさい、このところお腹の具合が悪くて」と周りに伝えるようにしていました。そのうち、下痢をするのは食後の数時間だけだと気付いたので、今は会議前に飲食しないように調整しています。
通院のための休暇取得や外出時間の確保で苦労しませんか?
私の場合は、基本的に自分で会議や出張の予定をコントロールできる立場なので、調整に苦労はありません。とは言え、出なくてはいけない会議や、部下の業務チェックがあるので、点滴治療後に会社に戻ったり、在宅勤務をしたりしています。休日勤務も発生します。
なぜ、部下にはがんであることを知らせないのですか?
実は、こころの病を抱える部下がいるので、自分が病気であることは言い出せないです。部下は半年休職して復帰がかない、やっと休職前の70%程度の労働をこなせるようになりました。私が「がんです、治療が隔週であります、不在の時間も増えます」と言ってしまうと、病み上がりの部下の精神状態がどうなるか不安だし、業務を肩代わりしている残りのメンバーにも精神的な負荷が増えるのではないかと心配してしまいます。結果として、自分の病気は伏せています。

このような回答をもらい、自分も同じだったなと述懐しました。また、がんとメンタル疾患、それぞれの病気の特徴や治療の影響を理解しながら、ともに働く仲間として受け入れやすい環境を作る時代であるとも感じました。

昨今では多くのがん就労者が、外科手術で入院するとき以外は長期休暇を必要としません。術後治療が必要な場合も、抗がん剤の一部は初回だけ入院投与となる場合がありますが、ほとんどの場合は外来で投与できます。また、平日夜間や土曜日に診療している医療機関も増えています。放射線治療にいたっては、1回の治療時間は10~30分程度で、勤務先近くの病院であれば始業前や終業後、昼休みに治療に通えます。治療を数回実施すると、治療後自分の体調がどのようになるのか理解できるので、外出扱いにするのか半日休暇取得にするのかなどの見込みもたてられるようになり、就労も含めて自分の生活を管理できる方が多い印象があります。

現在、日本が取り組まなくてはいけない課題に、労働力の確保があります。がんやその他の病気を抱えながら働き続ける人は増えつつありますが、本人の就労の意思や能力とは別に、勤め先が「病気を抱えた人は勤務できないのではないか」と思い込んでしまう場合もあります。どんな病気であっても、その病気の特質と治療の影響を正しく知れば、働く仲間として受け入れられるはずです。特に、がんとメンタル疾患という現代社会が抱える2大疾病については、病気に対する理解が深まって、治療中の人でも活躍できる職場が増えてくれればと思います。

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