第7回 手術と入院の意味

がんは種類も多くステージも人それぞれですが、少なくない患者が手術と入院を経験します。退屈な入院期間ともいえますが、手術の傷を癒す時間でもありますし、何より心の「区切り」を付ける大切な時間だと思います。

がんが疑われてから多くの検査を経て「悪性です」と告知されるまでには、経験のない人が想像する以上に長い時間がかかります。私もがんを患っていると初めて知った2005年は、「がんと告知されるまでの過程で病気が悪化するのではないか」などと思ったほどでした。漠然とした不安を抱え、物理的にも精神的にも長い待ち時間を経験しましたが、待ち時間の間に病と向き合う心の平静さも次第に取り戻しました。仕事にかまけて自分を省みずにいた自分と向き合う独りの時間を持てました。

そして、やっと手術の日程が確定して、術前化学療法などがなければ手術の前日あたりに入院が始まります。入院日数は、手術の部位や方法、術後の回復度合いや体力に左右されます。私の経験では、最短で10日、最長で17日でした。

手術前日の入院初日は、血液検査、尿検査、MRIの撮影、心電図、麻酔量確認のための肺活量テストなどの検査が目白押しです。この検査には3時間程度かかりますが、“明日の手術のため”と目的がはっきりしているので不安もないですし、待ち時間も気になりません。体力に不安が無い限り、「体の中の悪いものを、やっと取り除ける」という期待感が大きい患者さんが多いのではないでしょうか。私はそうでした。

手術の前日は眠れない人も多いので希望すれば睡眠導入剤を処方されますが、起床時間には起こされます。手術時間の1時間前までは病室や談話室で家族と過ごしますが、30分前頃には看護師さんに付き添われて手術室に移動します。ストレッチャーで横になったまま移動する人、車椅子の人、歩いていく人、それぞれです。

手術室の集中待合室で入院病棟の看護師さんと手術部の看護師さんとが入室手続き(患者氏名の確認や備品チェックなど)を行ってから、手術部の看護師さんと一緒に手術室に向かいます。自分自身で手術台に乗ったあとは、麻酔医が麻酔をして意識が消え、次に意識が戻った時には「終わりましたよ」と主治医の声がする、というのが私の経験です。

手術時間は胸部で3~5時間、頭部で9時間でした。眠っている私にとっては知らぬ間に終了するものという印象ですが、待合室で待機している家族の心中はいかほどかと申し訳なく思います。

年齢や体力に関係なく、麻酔が覚めた後の術部の痛みや発熱などに誰しも数日苦しむと思いますが、入院しているため痛み止めも抗生剤もすぐに処方してもらえます。また、体調が急変しても医療従事者が側にいることは非常に大きな安心要素です。

痛みをやり過ごしたあとの入院生活は、ともすれば単調です。起床・就寝の時間、三度の食事時間、入浴可能な時間も面会の時間もすべて決まっていますので、ルールに従って一種の共同生活を営みながら、主治医が「OK」といってくれるまで病棟で過ごすのです。

私の過去6回の手術/入院は、就労しながら有給休暇を取得して対応しました。職位上または性格的に仕事を放置して入院することができず、毎回空きがある限り個室を選び、酸素マスクが取れた途端に会社のパソコンをチェックしていました。

一度だけ、担当医の属する病棟のベッドに空きがなく、最上階のいわゆるVIPフロアに入院することになりました。すべて個室で、最大の部屋は会議ができる楕円テーブルと会議備品もあり、社会的に安らいでいられない患者さんの苦労に思いをはせました。こうしたフロアでは入院個室に患者の氏名は掲示されておらず、セキュリティ管理も厳しいため、この時にお見舞いにきてくれた友人は緊張したそうです。

入院までの長い道のりを不安の連続で生活してきた患者にとって、入院は手術で患部を切除できた安堵を実感できる時期でもありますし、術中に採取したがん細胞の顔つき(悪性度など)が判明する時期でもあるので、手術の次の治療法を熟考できる時でもあります。そのため、入院中に先進医療を含め考えうる限りの治療情報が入手できると、冷静に判断できるのではないかと思います。主治医の回診もあるので、治療法について主治医に相談するチャンスでもあります。

がん治療のひとつの区切りである術後の入院期間を、これまでの人生の洗濯期間に、また次の治療の一手をじっくりと検討し英気を養う時間にできると理想的だと思います。

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