第1回 ああ、化学療法デー

昨日は3週間に一度の化学療法デーでした。
私は2008年7月に初めて化学療法(抗がん剤治療)を受けて以降、現在は薬剤も変わっていますが、総じてずっと副作用は軽いほうです。脱毛や手足の乾燥などに苦労した経験はありますが、吐き気やだるさは意識したことがありません。仕事が忙しすぎて、体の声を聞いていなかっただけかもしれませんが。しかし、「化学療法デーはちょっと憂鬱」なのは、他の患者さんとおなじだと思います。なぜならば、大学病院で化学療法を受けるということは、一日仕事だからです。(だから私はこうした平日の治療のために指定休を頂いています)

がん患者の長い一日

8:25 東京都内の大学病院に到着
8:30 3階 化学療法専用室で採血(結果をすぐに出してもらいます)
8:50 2階 外科総合待合室で乳腺外科の主治医診察を待つ。
この間、携帯電話利用可能エリアで友人のがん患者からの質問や、異業種交流会友人からの質問に返答。
9:50 診察室に呼ばれ、主治医の診察がスタート。「さすがに、前回の治療と間隔があいたから白血球も好中球もOKですね。」

【解説】

3週間前の化学療法では白血球数が基準値を割りこみ、タキソール(骨髄抑制が強い抗がん剤で、投与後に白血球が減りやすい)を投与しなかったため、白血球数が回復するまで6週間ありました。現在通院中の大学病院の基準では、好中球数が1500/μlを超えないときには、骨髄抑制を起こしうる薬の投与は避けます。

  • 「何か気になることありましたか?前回は大きなめまいが数回あったとおっしゃっていましたが」
  • 「今回めまいは問題なかったですが、鼻の奥が痛く、ずっと今日まで続いています。プールで泳いだ後、塩素でツーンとしますよね、あんな感じです。」
  • 「うーん、あまり他の患者からは聞かないな。続くようなら耳鼻科いきましょう」

【解説】

私の主剤の分子標的薬アバスチンは血管新生阻害剤として効果がありますが、血圧が上がる、出血時に血が止まりにくい、血管が切れやすいといった副作用が起こる場合があり、冬に鼻血で悩むこともあります。

1日150~200名の患者さんに応対している多忙な主治医との会話にしては充実した会話ですが、要点を押さえて会話しないと主治医に申し訳ないので、素早く会話を終了して化学療法室へ移動します。(私の友人の患者はいつもこと細かくノートに記載しながら、主治医との会話を記録しています。)

10:00 3階 化学療法専用室へ移動。いつもより混んでいて席に着くまで15分くらい掛かりました。
10:15 やっと自分の席(点滴スペース)を指定され、台に荷物を仕分けして置きます。
点滴も3時間を越えると国際線のフライトと同じようなものですので、目薬や飲み物、本を手元に置きます。

そして担当の看護師さんがやってきました。

  • 「こんにちは。今日の担当のAです。宜しくお願いいたします。今回はめまいはなかったようですね。よかったです。でも、鼻奥の痛みがずっと続いたの?何でしょうね?」
  • 「そうなんです。理由がわからないの。でも、前回タキソール+ポララミンがなかったから、アバスチンの効果(&副作用)が強く継続したような気がするんですよね」
  • 「うーん、そうかなぁ。あまり同時点滴薬剤の相互影響ではないと思うけれど、でも様子をみましょうね。」

看護師さんは、点滴をする側の腕に温めたタオル(※血管を広げるため)を乗せて、いったん退出します。

ここ数年で病院満足度(これはH20版で速報のH24版は上昇)が上昇傾向である情報はご存知かもしれませんが、看護師さんが電子カルテで患者と主治医の会話をチェックし、患者の状況をきちんと把握して、治療時のケアにつなげる取り組みが格段にアップしていると感じる、本大学付属病院治療歴10年の私です。

穿刺は医師も患者もストレスフル

10:40 薬剤の調製が終わり、私のスペースに看護師さんが点滴薬を持参し、口頭および診察券で氏名確認をしたうえで、穿刺(せんし 針を刺すこと)するインターンの医師を呼びにいきます。この大学病院のルールとして、抗がん剤の点滴に関する穿刺は医師免許のある人に限っているとのことです。穿刺資格に関しては、病院ごとにルールがあり、都立だと看護師も実施する場所もあるようです。
10:45 今日のインターンの医師はなかなかベテラン風です。
いつも点滴穿刺する箇所を聞いてくださいましたが、血管をじっと見て、2、3分経過。
  • 「血管細いですよね。いつもの穿刺箇所っておっしゃったところ、血管浮き出ません。こっち(手首寄りを指す)ではだめかなあ」

と看護師と相談しつつ私を見る。

  • 「手首寄りでもいいですが、いつもの場所で大丈夫なはずなんですが…」

結局、血管がぜんぜん見えないいつもの箇所に穿刺したら、随分奥のほうで血管にあたり、点滴チューブに無事接続作業完了。

  • 「あーびっくりしました。こんな奥に血管あるかなとおもっていたらしっかりあった」

と医師もドキドキだったようです。

がん患者のみならず、一般患者の病院嫌いのワースト5には「(注射)針」があります。
ですので、ホスピタリティのあがっている病院になればなるほど、穿刺行為に入る際の患者とのコミュニケーションや、丁寧(&確実)な手技を心がけているように感じます。穿刺に関して工夫するだけでも、患者の病院満足度は確実に上がると思うほど、重要な要素ではないでしょうか。

10:50 点滴開始 ここからは長いので全部記載しません。
生理食塩水 → アバスチン→ ポララミン&デキサート&ファモチジン(この薬で眠くなる)
→タキソール→ ゾメタ→ 再び生理食塩水
14:30 点滴終了。
点滴自体で3時間20分ほど、かつ薬剤間は薬の入れ替えや氏名確認、かつ看護師さん待ちの時間もあるので、フルコースの日は早くて10時前に点滴を開始し13:30終了、遅くて本日のように14:30終了となります。
  • 「はい、終了ですね。お疲れ様でした。気持ち悪さやめまいはないですか?」
  • 「まだポララミンでぼーっとしてはいますが大丈夫です。次に婦人科にいかなきゃいけませんし。しかし、今日は化学療法室待合も大混雑でしたね。」
  • 「連休明けで連休中休薬していた患者さんも多かったから、今週は毎日多いんですよ。でもあと3、4人あとに到着されていたら、午前のお席が確保できなくて、2時間ほどお待ちいただくことになってしまったので、午前のお席が確保できてよかったですね。」

やはり、病院も休み明けは混みます。世の中の長期休み後は配慮して早めに到着しようと思います。

14:40 同じフロアの婦人科に到着。3週間前に実施した、子宮と卵巣の細胞検査の結果を聞く。
こちらも「産婦人科」を掲げているので、産科が減りつつある世の中、産科が残っている病院は混雑します。
14:50 担当医に呼ばれ、「問題ないですよ。では次回は半年後に」と言われ5分もかからず退出。
15:00 まだ薬の影響でふらふらしますが、今日はこちらのがん患者相談支援センターで、質問したいことがあり、朝予約を取ったため、カウンセリングを受けます。(無料です)
15:40 カウンセリングが終了し、お会計待ち。これもだいぶ長くかかります。
16:15 大学病院から退出。

大学病院で受診するメリットデメリット

フルコースの標準治療化学療法を受け会計終了まで含めると病院内に6時間以上滞在します。病院往復の体力も考えると、自宅から近くて優れた病院を選んでおくということがとても大事だと思います。もちろん、外科手術は大学病院、その後の化学療法や放射線は近くの病院を紹介してもらうということもできます。しかし、私のように初来院から既に6回も同じ病院で手術を経験、ということもありうるのが、がんという病ですので、こうなると、あうんの呼吸ではないですが、過去10年間の自身の疾病記録をカルテとして蓄えている病院と付き合い続けることで、余計なストレスとエネルギーを使わずにすむわけです。

医療情報は取り扱いに特に注意が必要な個人情報であることから、カルテ情報の医院間連携は遅れています。厚労省が主導して、カルテ情報の医院間連携や、遠隔治療促進のためにモデル地区を定めて、かかりつけ医院に患者が居ながらにして大学病院に医療相談をすることなどができるようになってきています。しかし、情報共有の分野では遅れている業界です。

複数の診療科に一箇所でかかれる大病院のメリットもありますが、自由診療の免疫療法を受けているクリニックにもメリットはあります。単科診療で予約の時間通りにすべてが運び、お会計も治療の個室で完了できる専門クリニックは、がん患者のように体力が衰えがちな患者さんにはありがたいですね。専門クリニックのよさに、さらなるホスピタリティの向上と充実を図り、がん免疫療法提供クリニック各所も、がん患者とその家族に優しく、頼もしい医療機関で在り続けて欲しいと願います。

そして、化学療法の翌日の体調は?特に悪くないのです。2日経過した頃は少しからだがだるく、「出かけたくない、掃除機は動かしたくない」という気持ちがよぎりますが、とあるNPO法人主催の「がん市民講座」で申し込み登録をした「すい臓がん治療の最新情報」を聴講したく、だるさを脇においてでも出かけることになると思います。

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