免疫療法とは
アンメットメディカルニーズとがん免疫療法
免疫機構を利用してがんを縮小させるという発想はかなり古くからあり、1890年代、外科医Coleyによる細菌を使った試みが始まりと言われています。以降、免疫学や周辺領域が飛躍的に発展し、免疫療法が難治性がんなどに対する治療選択肢として拡大する可能性が高まりました。現在、「必要とされているが、その要望に応えられていない医療分野」、つまりアンメットメディカルニーズに応える治療法として、がん免疫療法が注目されています。
がん免疫療法の多様な種類
がん免疫療法の臨床応用が始まった1970、80年代当初は免疫賦活剤やサイトカイン療法などの非特異的免疫療法(表)が中心でしたが、画期的な分岐点となったのは1991年のがん抗原の同定です(1)。これによりがんに対する細胞性免疫応答を活用した治療法への道が拓かれ、ペプチドワクチン療法などの特異的免疫療法が開発されました。一方、細胞を用いた免疫療法としては、以前から活性化リンパ球療法などが実施されていましたが、近年は特異的な作用が期待できる樹状細胞ワクチン療法の研究が進んでいます。また、活性化したT細胞にはブレーキ(抑制機構)が働くこと、がんもこの抑制機構を利用していることが明らかとなり、これまでの免疫力を増強する治療法だけではなく、ブレーキを解除する免疫チェックポイント阻害剤が実用化されています(2)。
(1)van der Bruggen P, et al.: Science 1991; 254: 1643-7.
(2)Wang C, et al.: Cancer Immunol Res 2014; 2: 846-56.
表. がん免疫療法の種類
免疫力を増強 | 免疫抑制を解除 | |||
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細菌、サイトカイン、 ペプチド、抗体等を使用 |
細胞を使用 | 細菌、サイトカイン、 ペプチド、抗体等を使用 |
細胞を使用 | |
特異的 がんを狙い撃ち |
抗体薬
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樹状細胞ワクチン療法 | 免疫チェックポイント阻害剤
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- |
非特異的 全体の免疫力を 底上げする |
免疫賦活剤
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リンパ球療法
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- | |
サイトカイン療法
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がんに対する免疫応答
体内の免疫機構によって特異的にがんを認識して攻撃するプロセスは、図1のように考えられています。
①マクロファージや樹状細胞ががん細胞を貪食し、消化することでがん細胞からがん抗原が生じます。
②、③樹状細胞はがん抗原をMHC*1クラスIに乗せて細胞上に表出させ(抗原提示)、MHCクラスIとがん抗原の複合体がT細胞上のT細胞受容体(TCR)と結合します。この時、2つのシグナル(シグナル1と2)―樹状細胞上のMHCクラスIとT細胞上のTCRおよびCD8の結合(シグナル1)、樹状細胞上のCD80/86とT細胞上のCD28の結合(シグナル2)―の作用により、T細胞が活性化します。
④活性化T細胞によって認識されたがん細胞は、活性化T細胞から分泌される細胞傷害性物質によって細胞死に至ります。がんに対する免疫応答では、プレーヤーであるT細胞だけではなく、司令塔としての樹状細胞も非常に重要な役割を果たしています。
*1:MHC(major histocompatibility complex):主要組織適合遺伝子複合体
図1. がんに対する免疫応答
